大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 平成8年(特わ)421号 判決

裁判所書記官

上山亨一

本店所在地

東京都練馬区早宮四丁目三七番二四号

有限会社森川金属

(右代表者代表取締役 森川幸司)

本籍

東京都練馬区平和台三丁目一〇五番地七

住居

同区平和台四丁目七番二四

平和台グリーンハイツ二〇四号

会社役員

森川幸司

昭和一九年三月一〇日生

右の者らに対する各法人税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官石垣陽介並びに弁護人鈴木薫各出席の上審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人有限会社森川金属を罰金一二〇〇万円に、被告人森川幸司を懲役一〇月に処する。

被告人森川幸司に対し、この裁判の確定した日から三年間その刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人有限会社森川金属(以下「被告会社」という。)は、東京都練馬区早宮四丁目三七番二四号に本店を置き、鋼材の販売等を目的とする資本金五〇〇万円の有限会社であり、被告人森川幸司(以下「被告人」という。)は、被告会社の代表者として同会社の業務全般を統括しているものであるが、被告人は、被告会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、架空仕入を計上するなどの方法により所得を秘匿した上、

第一  平成三年九月一日から平成四年八月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が六五二八万三八八七円(別紙1修正損益計算書参照)であったにもかかわらず、平成四年一一月二日、東京都練馬区栄町二三番地七号所在の所轄練馬東税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が二四〇四万七一三三円で、これに対する法人税額が八二〇万五〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(平成八年押第七六一号の1)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって、不正の行為により被告会社の右事業年度における正規の法人税額二三六六万四〇〇〇円と右申告税額との差額一五四六万三五〇〇円(別紙3ほ脱税額計算書参照)を免れ

第二  平成四年九月一日から平成五年八月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が一億二五一六万三五七九円(別紙2修正損益計算書参照)であったにもかかわらず、平成五年一一月一日、前記練馬東税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が三七三八万四五〇六円で、これに対する法人税額が一三二一万九七〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(平成八年押第七六一号の2)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって、不正の行為により被告会社の右事業年度における正規の法人税額四六一三万六八〇〇円と右申告税額との差額三二九一万七一〇〇円(別紙3ほ脱税額計算書参照)を免れ

たものである。

(証拠の標目)

(各証拠の末尾の記載は、証拠等関係カード(検査官請求分)での各証拠の番号を掲記順に略記したもので、甲一は同カード甲番号1を、乙一は同カード乙番号1を表す。)

判示事実全部について

一  被告人の当公判廷における供述

一  被告人の検察官に対する供述調書(但し、本文八丁及び本文三一丁のもの)(乙三、四)

一  森川美恣紀及び片岡輝夫の検察官に対する各供述調書(甲七、八)

一  大蔵事務官作成の仕入高調査書、受取利息調査書、損金の額に算入した道府県民税利子割調査書、事業税認定損調査書及び雑損調査書(甲一ないし四、六)

一  検察事務官作成の捜査報告書(二通)(甲五、一〇)

一  練馬東税務署長作成の証拠品提出書(甲一一)

一  大蔵事務官作成の領置てん末書(甲一二)

判示冒頭の事実について

一  被告人の検察官に対する供述調書(但し、四丁のもの)(乙二)

一  東京法務局練馬出張所登記官青柳允隆作成の登記簿謄本(乙五)

判示第一の事実について

一  森川史郎の検察官に対する供述調書(甲九)

一  押収してある法人税確定申告書一袋(平成八年押第七六一号の1)(甲一三)

判示第二の事実について

一  押収してある法人税確定申告書一袋(平成八年押第七六一号の2)(甲一四)

(法令の適用)

被告人の判示各所為はいずれも法人税法一五九条一項に該当するところ、各所定刑中いずれも懲役刑を選択し、以上は平成七年法律第九一号による改正前の刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四七条本文、一〇条により犯情の重い判示第二の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で懲役一〇月に処し、情状により同法二五条一項を適用してこの裁判の確定した日から三年間右刑の執行を猶予し、さらに、被告人の判示各所為は被告会社の業務に関してなされたものであるから、被告会社については法人税法一六四条一項により同法一五九条一項の罰金刑に処せられるべきところ、情状により同条二項を適用し、以上は前記刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四八条二項により合算した金額の範囲内で罰金一二〇〇万円に処すこととする。

(量刑の理由)

本件は、判示のとおり鋼材の販売等を営む被告会社の代表取締役であった被告人が、架空仕入を計上するなどの方法により、所得を隠匿し、二事業年度にわたって合計四八〇〇万円余の法人税をほ脱した事案であるが、ほ脱額も右のとおり少なくなく、ほ脱率も通算で約六九・三パーセントに達している。そして、所得秘匿の態様も、被告人の実弟に協力方を依頼し、継続的に同人の経営する会社から架空の納品書を被告会社に入れさせるなど計画的な面があり、悪質である。また、被告人は、本件犯行に及んだ動機について、連鎖倒産による被告会社の経営危機に備えての運転資金や被告会社の取引先の援助資金を脱税によって捻出しようと考えたなどと供述しているが、国の財政が国民の公平な税負担の上に成り立っていることを考えれば、いかなる理由にせよ不正な行為で納税義務を免れ蓄財を図ることなど到底許されるところでなく、酌量に値しない動機である。以上の諸点からすれば、被告人及び被告会社の刑事責任には重いものがある。

しかしながら、被告人は、本件発覚後は捜査に協力し、反省の情を示していること、被告人には業務上過失傷害による罰金前科一犯があるのみであること、被告会社は、その後本件に関する分を含めて修正申告して、本税、延滞税等を完納していることなど被告人及び被告会社のために斟酌すべき事情も認められる。

そこで、これら本件の審理に現れた一切の事情を併せ考えた上、被告会社及び被告人を主文のとおり刑に処し、被告人についてはその刑の執行を猶予するのを相当と判断した。

よって、主文とおり判決する。

(求刑 被告会社につき罰金一五〇〇万円 被告人につき懲役一〇月)

(裁判官 阿部浩巳)

別紙1

修正損益計算書

〈省略〉

別紙2

修正損益計算書

〈省略〉

別紙3

ほ脱税額計算書

有限会社森川金属

〈省略〉

有限会社森川金属

〈省略〉

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例